独立してみて痛感したのは、実力だけでなく「再現性」「スピード」「視座を高く持つ」「長期視点」「交渉力」という能力があると、不安定なフリーランスでも、メンタル的にも仕事的にも安定させやすいことです。
私は、それらの能力を独立するまでの会社員の経験から得ることができました。
本記事では、それぞれの経験がなぜ独立に効いたのか、逆に「無くても困らないもの」は何と考えているかを、私個人の独断で整理してみました。
なお、記載内容は私のケースにおけるものですので、全員に当てはまる内容ではないことはご理解の上、参考にしていただけますと幸いです。
経験しておいてよかった経験① ~複数回の転職~


転職を重ねる中で、どんな職場でも最初の1~2週間で戦力になる能力が身につき、何度も繰り返せることで再現性のある能力として、自分の自信に繋がっています。
- 適応力・適応スピードを向上させる経験
職場ごとに組織文化・評価軸・ツールが異なる中で、短期間で状況を把握し、小さな成果を作り、周囲の信頼を早く得る能力が身につきました。
特に独立後は、参画初日から期待され、成果を待ってはくれないので、早く戦力になる力は信用・継続・単価に直結する、かなり重要な能力だと感じています。 - 複数回の転職の経験により再現性を担保する経験
上記の適応力は、ひとつの職場でできたからといって、次の職場で再現性があるかはわからないと思います。
しかし、私は何度も転職をし、その都度、ほとんど同じペースで、周囲の信頼を得て、成果を上げることができ、独立後もできているので、再現性のある能力として、自信を持っています。
この能力があることによって、案件を変えるハードルが極めて低くなり、自分にとって価値の低い案件は、自分から断ることができるので、重要な能力だと感じています。 - 複数の会社における様々な組織文化や、様々なバックグランドを持つ方々との仕事の経験
利害や価値観が違う人たちと、友好的な関係を築き、合意を作るコミュニケーション能力が育ったと感じています。
特に、PMやPMOという立場的に、友好的な関係を構築することは、プロジェクト成功にとって重要な要素のひとつであるので、私を支える重要な能力のひとつです。 - 上記経験による自信の獲得
上記の通り、多くの場数を踏んでいるので、頻繁に現れる未知の状況に対しても、なんとかできるという一種の根拠のない自信を持つことができています。
自信を持って仕事ができるので、クライアントにも安心感を与えることができていると思います。 - 汎用的で、基本的なビジネススキルの習得
私の場合、IT以外の営業・財務・契約・マーケティングといった基本的なビジネススキルにも触れる機会がありました。
提案活動や数字を用いた説得、契約条件の調整などを通じて得た基礎力は、フリーランスとしても案件を獲得・遂行する際に欠かせない要素ですし、フリーランスの活動の中でも、ITに特化しながらも、ビジネス全体を俯瞰できる力を持つことが、結果として自分のポジションの差別化にもつながっています。
経験しておいてよかった経験② ~駐在経験~





私が赴任したケースでは、基本的に誰も助けてくれない前提でした。
なので、自分で決めて動き、組織の力を使う能力がつきました。
文化や言語が違う中での仕事なので大変ではありましたが、今の私を支える重要な要素です。
- 自分で何とかしないといけない経験
駐在中に身に付いた支援や体制が揃わない環境で成果を出す能力は、独立後においても、判断と説明責任を自分で引き受け、自分事として仕事を強烈にけん引することができ、クライアントに信頼からの信頼を得やすくなりました。 - 自分で何とかしないといけないうえで、組織を作る考え方と組織の力を使う経験
自分で何とかしなければいけない。しかし、個人の頑張りには限界があることがわかり、役割分担・体制構築することになります。
この経験は、大きいプロジェクトになればなるほど不可欠な考え方であり、プロジェクト遂行に必須の能力です。 - 知らない土地で異なる文化の人と協力関係を築かなければいけない経験
自分の常識が通じない前提で、相手のメリットを一緒に考え、合意形成する能力が身につきました。
なお、相手のメリットを考えることは相手の言いなりになるわけでなく、本質的な相手のメリットを探すことが重要になりますが、相手の言いなりになっている人を良く見かけますので要注意です。(コンサルやベンダーだと立場的に難しいし、できない方が多い印象ですので、注意した方が良いです)
この能力は、部署横断・多国籍のプロジェクトでも、ブレないコミュニケーション軸になります。 - スピード感のある仕事の経験
まず、日本とは比べ物にならない大小さまざまな案件を、同時並行でいくつもこなすことが要求されました。
その中で、100点を求めて仕事するのではなく、及第点の60点さえ届けばとりあえず良いという考え方で動き、早いサイクルで仕事を回していく能力が身に付きました。
独立後においても同じスピード感で仕事をすると100%驚かれるので、自身の売りのひとつになっています。 - 取引先・調達先との交渉経験
自分たちがどうすれば優位に交渉を進められるか、考えて実行する能力も身に付きました。
独立後は基本的に、信頼さえ得られてしまえば、こちらが交渉の主導権を握ることができるので、これ以外に記載した信頼を得るための能力を身に付ける方が先決かと思います。
ただし、信頼を得られたからといって、早とちりして交渉してしまうのは、信頼を失うことに繋がるので、交渉は信頼のゲージがどうなるか?をベースに考えて、行動した方が良いかと思います。 - 採算責任を持つ経験
単に成果を出すだけでなく、部門やプロジェクトの収支バランスに責任を持つ立場を経験することもありました。
本質的に会社の発展のためにどのように振る舞えば良いかを、緊張感を持って考えながら動く習慣は、フリーランスになってからも活きていて、取引先の会社の動きが手に取るようにわかるようになります。
また、世間一般的には、表面的には理解している風の人は多いですが、実際に事業の責任を持ったことがある人とない人では、圧倒的に考え方が異なることは、話し方や考え方で良くわかるので、表面的な理解だけに留まらない方が良いです。
経験しておいてよかった経験③ ~スポーツ経験~





上手く行かなかったことから反省し学び、即座に改善に繋げる能力が自然と身に付いたと思います。
挫折で得た謙虚さは、コミュニケーションや長期的な関係づくりに効いていると思います。
- 上手く行かなかった経験から学んで、修正する経験
スポーツには勝ち負けがつきものですので、勝ち続けることは基本的にないかと思います。
負けたことに対して落ち込むのではなく、反省し学び、改善に繋げていくことで、成長していくと考えています。
仕事の場で、明確に勝ち負けが付く場面はそこまで多くはないかもしれませんが、自分なりに上手く行かなかったと思う場面で、悩んだり落ち込んだりするのではなく、自然と改善に繋げる姿勢はスポーツを通じて得た能力だと思います。
この姿勢は独立してからも同じで、失敗しないことが理想ではありつつも、上手く行かないこともあると思いますが、即座に改善に繋げることでクライアントからの信頼を得られると考えています。 - 挫折の経験
スポーツをしていると遺伝的な天才たちと出会うことになります。スポーツに取り組んでいるときは、必死に差を埋めようと努力はしますが、スポーツをやめた後に、あの差は絶対埋められない差だったことを痛感しました。
この挫折の経験は結構強烈で、数年間死に物狂いで努力して、一時期は近づいたと勘違いしていた感覚は間違いで、到底埋まる差ではなかったことを後から知ることになります。
この経験から、自身の無能さを痛感することで、他者に対して謙虚になったと思います。
この経験が無ければ、他者に対して謙虚になることもなく、上から目線で物事を発言する人間になってしまっていたと思いますし、そうであれば現在の仕事においても、関係者と協力体制を築くようなことは出来るようにならなかったと思います。
経験しておいてよかった経験④ ~ITシステム導入における下流(コーディング)から最上流(戦略構想)すべての経験~





コーディングから戦略まで一通りやったおかげで、経営視点と現場視点を使い分けることができるようになりました。
また、頭でっかちの構想ではなく、現実的な構想ができるようになり、相手の気持ちを考えてプロジェクト遂行できるようになりました。
- 複数社で下流から最上流の経験
プロジェクトを実行する「現場」と、経営層という「上流」の視点どちらも持つことができることで、立場の異なる関係者と話すときに、それぞれの立場に立って会話することができるようになりました。
また、経営層と現場の「橋渡し役」ができる人は結構希少なので、かなり重宝されることになります。
さらにプロジェクト立ち上げの際にも、下流を知らない人が構想をすると、現実的でない構想が出ることは良くあることですが、私の場合は「頭でっかちの構想でもなく」「ただ現実的な構想でもなく」、「会社の事業発展のための必要な、実現可能な構想」が出来るようになったと思います。
経験しておいてよかった経験⑤ ~株式投資経験~





株式投資は、会社選びに重要な視点を持たせてくれています。
案件に参加することは自分の時間を投資して、回収することだと考えています。
つまり、自分の時間(=お金と同じ)を掛ける価値がある会社である必要があり、価値の低い会社はリターンが低い可能性があるので、案件に参画することは避けた方が良いということになるという考え方です。
- 取引先として適切か判断する経験(リスクマネジメント)
自分の時間を掛ける価値がある会社であるを判断する軸は、基本的に株式投資と同じだと思います。
株式投資したくない会社は、自分の時間もかけるべきではないという考え方です。
実体験として、業績が悪く、業界的にも見通しがかなり悪い会社の案件に参画したことがありますが、単価は低く、貢献しても単価はなんだかんだ理由を付けて上げない。それにも関わらず、私への要求はどんどん増していく一方でした。(これは社会でも同じことが言え、貧乏人ほど要求が細かく・高くなるのと同じ原理かと思います)
結局、その案件は、論理的に契約が続けられない理由を述べて断ることにしました。 - 長期的視点を持つ経験
業績の良い会社の案件は、ポジティブでかつ長期的な視点で成果を上げる案件も多い印象ですが、反対に業績の悪い会社は短期的な目線で成果を上げる案件が多い印象で、そうするとその場しのぎなんとかするという経験しか身に付かなくなってしまいます。
そういった経験しかないと、短期的な案件にしか参画することができなくなってしまうと思います。
長期的な案件は戦略構想なども含まれ、その場しのぎで何とかする案件での頭の使い方が全く異なります。
なので、長期的にフリーランスを続けていこうと思うのであれば、長期的に業績が伸びていく会社の案件でも経験を積む必要があり、そのためには会社の見極めを株式投資と同じようにしなければいけないと考えています。
独立するときにあった方が良いことや習慣





独立すると基本的に全責任を自分で負うことになり、孤独になります。
そういった中で精神を安定させる意味で、以下があって個人的に良かったと思っています。
- 運動習慣
体力・集中・睡眠の土台を整え、メンタルの波を小さくすることができると感じています。
日々の生産性が安定し、交渉や判断の質も上がります。もちろん、健康の維持にも繋がると思います。
なお私は、週3、4回は5~10kmくらいのランニングをするようにしています。 - 勉強習慣
基本的にフリーランスは、自分がそれまでに培って、獲得してきた知識や経験を売っていくことになります。
そのため、会社員以上に新しいことにチャレンジすることが難しくなり、成長を実感する場面が少なくなり、停滞している感覚を持つことがあるかと思います。
そういった背景から、勉強する習慣があることで、自分が成長している実感を持ち、停滞している感覚を払拭した方が良いと考えています。
なお、私は最近「モゴモゴバスター」という教材で、英語のリスニングの勉強をしています。(仕事に繋げたいというより、イギリスのサッカー(プレミアリーグ)を見に行く上で、英語力があった方が楽しめると考えているため) - 趣味(依存先のひとつとして)
フリーランスの仕事は基本的に孤独だと感じています。もちろん仕事の関係者はいますが、成果を上げることが第一なのでその責任は自身で一手に担うことになるためです。
そういった中で、24時間365日仕事のことだけを考えていると、精神的にかなりの負担になると感じています。
そこで、自身の依存先のひとつとして、趣味をいくつか持っておくことが重要だと、独立してから強く感じるようになりました。
なお、私の場合は、ウイスキーが趣味なので、酒屋さんを訪れたり、たまにセミナーや蒸溜所見学に行ってみたりしています。 - 人生のパートナー(依存先のひとつとして)
趣味だけでも良いのですが、依存先は複数持っておいた方が良いと考えています。
人生を共にするパートナーがいることで、独りではないと安心感を持つことができます。
当然ながら、自身の人生観や価値観をパートナーと会話しすり合わせること、そしてパートナーから共感や同意を得ることは必須です。
反対に無くても問題ないこと





世間一般的には資格や人脈が重要とされることが多いと思いますが、私個人的には、現時点ではそういったものはフリーランスの仕事をする上では無くても良いかなと感じています。
- 資格や特定の技術
実務では、成果と再現性で評価される場面が多く、資格や特定の技術が直接価値に換算されにくいと感じています。
ごく稀に、資格がないと案件に応募できない案件もあるので、狙う市場次第では保持の意義はあると思いますが、資格の価値に頼ることになるので、中長期的にはあまりおススメできない戦略だと考えています。
また、特定の技術(特定の言語や製品)に精通していることが、応募要件になっている案件は、結構多い印象ですが、上述した理由と同じで、特定の技術に依存することになるので、個人的にはあまり良くない戦略だと考えています。なによりフリーランスとして独立した意味があまりないかと思います。
なお、私はPMP(Project Management Professional)の資格を持っていますが、フリーランスになってから、案件応募の場面でも、案件参画後においても必要だと感じた場面は一切ありません。 - 会社員時代の人脈
私の場合、所属していた会社が大きい会社であることもあり、そもそもフリーランスという働き方に対して理解がされないケースや、よくわからないという方が会社員時代の同僚や上司に多いです。
そういった状況下では、その会社から私が仕事を受注できる可能性は極めて低く、過去社員として働いていた経緯などもあり、フリーランスで入っても同様の動きを求められ、自由な働き方が難しいと想定されるので、私としてはそういった会社の仕事は選択肢に入らないと考えています。
なので、過去の人脈は過去の人脈として、現在の仕事とは直接的には繋がないように意識して、そういった方々との繋がりを持つようにしています。
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